夏の遠出

近年は恒例になってるのですが、夏の終わりに尾道市因島の祖父母が住んでいた家に一週ほど滞在してました。
島の中のこの地域は高齢化していて過疎化が進み、最後に残っていたスーパーが閉店し便利の悪い地域になっているのですが、人が少なくよりのんびりした空気が流れてもいました。買い物は島の中央部と北部のモールまで行かないといけませんでしたが、地域の人向けに生協のトラックが配達もしてるようでした。

前年と違ってあまりそこから遠出せず、ほぼ毎日一番近くの砂浜のある海岸に出かけて過ごしました。子供の頃は整備された海水浴場になっていて、よく出かけていた海岸です。
因島出身のポルノグラフィティというバンドのメンバーも昔よくここに来ていたようで、そのためバンドのファンの方もよく訪れるようです。現在は海水浴場ではなくなり、付近の工業廃水が減ったせいもあるのか海水が綺麗になっています。
ここは島の人や島外から仕事に来てる人の休憩場所にもなってるようで、たまに話しかけて貰ったり、話しかけたりして楽しく過ごしました。

この海岸線を山の上から眺めるとさらに迫力のある稜線だったのを思い出し、それを再体験したく山にも登ってみました。当初はまだ余裕もあり山道の写真を撮ったりしていました。
比較的新しいスニーカーを汚したくなかったので、家に置いてあった10年前の滑り止めがチビているスニーカーを履いて登ったのですが、予想以上に落ち葉が敷き詰められていて、何度も滑って転倒しかけながら登ることになり失敗でした。鶯色というバンドに「ごらん犯人が転びながら山影を登って行くよ」という歌詞があるのですが、まさにそんな感じです。

その登山の途中で不意に大きなイノシシに遭遇しました。従兄弟から噂に聞いていた夜に山を下って、集落を荒らしているイノシシの集団の一匹だろうと思います。大きな牙があったので雄でしょうか。イノシシはどうやら寝ていたみたいなのですが、僕の足音に気がついたのか、急に忍者のように木の葉の中から起き上がりました。僕はとっさの事にかなり驚いていたのですが、平静を装って斜め上7㍍くらいの場所に居るイノシシとしばし睨み合っていました。イノシシの目は血走り、足を踏み鳴らしていて今にもこちらに突進してこようとしているようでした。

数秒のことだったと思いますが、僕はもし突進して来たら2つの選択肢があると、咄嗟に考えていました。一つは近くの木の枝に飛び移るというものです。しかし枝は僕の体重に耐えられるか微妙なところでした。道中滑りそうになった時近くにあった比較的太い枝を掴んだ時にも簡単に折れてしまったからです。もう一つはイノシシが突進してくると同時に、タブレットやスマホや鉄製の水筒やお弁当が入っているリュックサックを背から外し、瞬時に闘牛士のようにサッと身を横にかわし、リュックでイノシシの頭を横から打つというものでした。

後者に決め、先にリュックを外した瞬間にイノシシは突然方向を変え真下の方向に走り出しました。焦っていたのか落ち葉がいっぱいの山肌をボブスレーのように滑って行きました。途中からは勢いが付いて止まらなくなり木の影に見えなくなるまで長い距離を滑って行きました。

不意に緊張が解けたのと、滑って行くイノシシの様子がおかしくて僕は山の中一人で爆笑していました。その後荒れた山を頂上まで再び滑りながら登ったのですが、木が高くなっていて海岸線の眺めは無くなっていました。

下山途中に僕も大きく滑りイノシシのように山肌を滑りました。滑ったせいでかろうじて残っていた登山道に戻れなくなったこともあり方向感覚がなくなり、しばらく山を彷徨いました。下れば何とか元の道に戻れるだろうと思っていましたが、予想と違い山が険しく暗くなって来て、また大幅に滑る可能性も出て来ました。滑ったところまで戻り、滑った斜面を何とか登ろうと考え引き返しましたが、元の場所にも戻れません。山脈ではなく半島の山でしたが少し焦って来ました。しばらくまた彷徨っていると木の隙間からかすかに海が見えたのでその方向に進みました。急な勾配を進んで、最後に崖に近い急な斜面を何とか下り遠く離れた海岸線の周遊道路に何とか辿り着いたのですが、傷だらけでやや命からがらでした。大怪我しなくて良かったです。

ポルノグラフィティに女性の視点で歌われた曲がありますが、最近流行ったらしいサウシードッグと藤井風の曲を聴くと、同じくその視点で歌われていました。いずれも中国地方出身のミュージシャンのようです。女性視点は日本の曲に多いみたいですね。僕はイノシシの視点になって歌ってみようと思います。

麓の自然を壊してる変ないきものが 俺の山に迷い込んで来た 奴は丸腰だ〜すぐに頭突きで飛ばすか〜牙で刺してやるか だが俺は殺生を避けてベイビーとウリ坊のところに向かった 銃無しだったから許してやったんだ 山は俺の住処、走ったり滑ったり自由自在なのさ〜